Quarkusを使ったアプリケーション開発では、従来のフレームワークなどで使われている命令型に加え、ここ最近のフレームワークで使われているReactive型の2種類の実装方法が選べます。命令型の実装ではBlockingとして動作し、Reactiveの実装ではNon Blockingで動作します。
Quarkus自体はReactiveネイティブで実装されています。そのため、HTTPのエンドポイントを命令型で実装しても、エンドポイントの部分だけBlockingで動きますが、他の部分はReactiveの恩恵を受けられます。また、そのエンドポイントをReactiveで実装することで全てNon Blockingで動作します。アプリケーションはRDBMSやREST APIなどへ通信することがありますが、これらをReactiveで実装するにはこれらのAPIがReactiveに対応している必要があります。
今回は従来型の実装とReactive型の実装で使われるBlockingとNon Blockingの2つが、どの様に性能に影響し、どの様にスレッドを使用しているかを確認します。
ReactiveやBlocking/Non Blockingについての聞き慣れない方もいると思いますが、本記事では説明を省略します。検索すると素晴らしい記事がたくさん見つかりますので、そちらを確認してぜひ知識として身に付けてみてください。
性能検証の構成
今回の検証では、検証対象となるアプリケーションから別のサービスを呼び出します。このサービスでは処理を擬似的に再現するため10ms遅延します。
命令型の実装では検証対象となるコードからサービスの呼び出しをBlockingで呼び出し、Reactive型の実装ではNon Blockingで呼び出します。
今回の検証では0.5コアを割り当てたコンテナを2つ動かして1コアを使い切る形にしています。その理由は、1コア*1プロセスではHTTPリクエストを受け付けるスレッドをおよそ1900件/秒で使い切ったためです。この際のCPU使用率は70%程度であり、この負荷が上限でした。そのため、プロセスを2つに分けることでこのスレッドの負荷を半減しています。
また、性能試験をするにあたり、負荷ツールや呼び出されるサービスがボトルネックにならないようにもしています。今回用意した環境では、負荷ツールは8,000件/秒の負荷を生成でき、呼び出されるサービスは30,000件/秒処理できます。この性能は検証対象と比べてはるかに大きいため、検証対象以外がボトルネックになりません。
性能の違い
命令型とReactive型のどちらでもCPUを1コア使いきりました。Reactiveによる実装のスループットは、同じリソース量で動く従来型と比べておよそ30%高いです。
実装例
次にアプリケーションの実装を見ていきます。
今回は負荷ツールから検証対象のREST APIにアクセスして、そのAPIからさらにサービスを呼び出します。 QuarkusではBlocking用のスレッドであるワーカースレッドとNon Blocking用のスレッドであるI/Oスレッドを用意しています。REST APIのメソッドシグネチャによってどちらのスレッドを使うかが決まります。
この使い分けは非常に重要で、必ず守らないといけません。
参考:Quarkus - RESTEasy Reactive - ブロックするか、ブロックしないか
今回、全ての箇所でやり取りするオブジェクトは以下のMessage
クラスのオブジェクトです。
public class Message { public String message; public Message(String message) { this.message = message; } public Message() { } }
命令型の実装
Quarkusでは命令型の実装を使うには以下の依存関係を使用します。quarkus-resteasy
はHTTPを受け付けるもので、quarkus-rest-client
はREST APIクライアントです。
<dependency> <groupId>io.quarkus</groupId> <artifactId>quarkus-resteasy</artifactId> </dependency> <dependency> <groupId>io.quarkus</groupId> <artifactId>quarkus-rest-client</artifactId> </dependency>
Quarkusでは、REST APIのクライアントはインターフェースを定義するだけで作成されます。このインターフェースではBlocking/Non Blockingどちらも対応していますが、こちらはBlockingの実装です。
@Path("/delay") @RegisterRestClient(configKey = "delay") public interface BlockingRestClient { @GET @Produces(MediaType.APPLICATION_JSON) @Consumes(MediaType.APPLICATION_JSON) Message invoke(); }
最後に負荷ツールがアクセスするエンドポイントを作成し、その中で別のサービスを呼び出します。フィールドとして、上記のクライアントをDIします。
@Path("/api") @Produces(MediaType.APPLICATION_JSON) @Consumes(MediaType.APPLICATION_JSON) public class TestEndPoint { @Inject @RestClient BlockingRestClient blockingRestClient; @GET public Message endpoint() { return blockingRestClient.invoke(); } }
Reactive型の実装
Reactive型の依存関係には命令型のartifactIdの最後に-reactive
を付けます
<dependency> <groupId>io.quarkus</groupId> <artifactId>quarkus-resteasy-reactive</artifactId> </dependency> <dependency> <groupId>io.quarkus</groupId> <artifactId>quarkus-rest-client-reactive</artifactId> </dependency>
クライアントの実装方法の違いは戻り値の型がUni<Message>
になっていることだけです。Uni
はQuarkusがReactiveの実装で使用しているsmallrye
のクラスです。この違いだけでこのクライアントはNon Blockingになります。
@Path("/delay") @RegisterRestClient(configKey = "delay") public interface NonBlockingRestClient { @GET @Produces(MediaType.APPLICATION_JSON) @Consumes(MediaType.APPLICATION_JSON) Uni<Message> invoke(); }
エンドポイントの実装では、同様に戻り値の型をUni<Message>
にします。その中で上記のクライアントを呼び出します。
@Path("/api") @Produces(MediaType.APPLICATION_JSON) @Consumes(MediaType.APPLICATION_JSON) public class TestEndPoint { @Inject @RestClient NonBlockingRestClient nonBlockingRestClient; @GET public Uni<Message> endpoint() { return nonBlockingRestClient.invoke(); } }
スレッドの使い方を確認する
先述の通り、QuarkusではBlocking用のスレッドであるワーカースレッドとNon Blocking用のスレッドであるI/Oスレッドを用意しています。
ワーカースレッドの名前はexecutor-thread-n
、I/Oスレッドの名前はvert.x-eventloop-thread-n
です。
今回はJDK Flight Recorderを使って記録したスレッドのイベント情報をJDK Mission Controleを使って確認していきます。具体的な図は後述しますが、スレッドの状態では赤がソケットからの読み込み待ち、水色がソケットへの書き込み待ちです。緑の部分は待ちがないことを表しています。
命令型でのスレッドの使い方
まずはじめに命令型でのBlockingのスレッドの使い方を見てみましょう。
Blockingによる実装では、負荷ツールからのHTTPリクエストをvert.x-eventloop-thread-1
で受け取り、Blocking処理であるサービスの呼び出しはexecutor-thread-0
で実行されています。
サービスの呼び出しを呼び出しているexecutor-thread-0
は、ソケット書き込みであるHTTPリクエスト(見えないかもしれませんが、2つの赤の間に記録されてます)をしてからサービスが処理をしている間(今回は10ms)ずっと返事を待っています(大きい赤が該当)。
しかし、負荷ツールとやり取りをするvert.x-eventloop-thread-1
はソケットの読み書き待ちにほとんど時間が掛かっていません。
Reactive型でのスレッドの使い方
次にReactive型でNon Blockingのスレッドの使い方を見てみましょう。
こちらは全てNon Blockingで動くためexecutor-thread-0
は使用しておらず、なにも待機イベントは発生していません。
また、vert.x-eventloop-thread-1
は負荷ツールとサービスの呼び出しを実行していますが、全てのソケットの読み書きのイベントは数十μsで終わっています。Blockingにあったように返事を待つようなことをせずにスレッドを有効に活用できるようになっています。
まとめ
Blockingを使った命令型の実装と比べてNon Blockingを使ったReactive型の実装は、スレッドの待機イベントを削減できスレッドを有効的に使えます。同じ量のCPUを割り当ててるにもかかわらず30%以上のスループット向上が実現できます。これによって、CPUを効率よく使えるようになり、インフラに掛かるコストが30%抑えられるようになるでしょう。
Quarkusを使い、JDBCなどのクライアントAPIがReactiveに対応している場合にはReactive型の実装をしてみてください。
次回は、よくありがちな間違った使い方をすると性能やスレッドの使い方がどうなるかについて紹介します。